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埼玉県 データヘルスによる重症化予防で医療費を10億円適正化

POSTED : 2015.8.13

(以下引用)

“埼玉県は31日、県内自治体が持つ医療ビッグデータを活用した糖尿病の重症化防止事業で、病院で治療を受けていなかった糖尿病患者の来院者数が約2倍に増えたと発表した。病院や薬局が使う診療報酬明細書(レセプト)などを活用し、対象者に来院を促した。県は「大きな効果があった」とし、今後は事業対象を全県に広げる。 同事業は川越市や所沢市など18市町と連携して実施。レセプトや特定健診(メタボ健診)の結果などから、糖尿病と診断されながら病院で治療を受けていない約3200人を抽出し、1月に来院を勧める通知を送付した。この結果、1~3月の来院者数は698人と、通知前の昨年10~12月に比べ約2倍に増えた。“

出所:日本経済新聞 2015/08/01

1.埼玉県の取組み

埼玉県は、昨年から市町村が蓄積している医療ビッグデータを活用した糖尿病患者の重症化予防事業を開始しています。この重症化予防事業では、埼玉県下18市町(注1)在住の国民健康保険の被保険者約100万人を対象とし、主に以下の事業を行ってきました。今回の報道から、その取組みの効果が出たことが伺えます。

(1) 「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」に基づき、特定健診データ、レセプトデータを分析し、糖尿病の重症化リスクが高い方を抽出する。
(2) リスクが高いにも関わらず、治療していない方や治療を中断してしまった方に対して医療機関への受診を勧奨する。
(3) 糖尿病治療のために通院中の患者さんに対しては、かかりつけ医と連携して食事や運動等の生活習慣改善のための生活指導を行う。

(4) 受診勧奨者等からの問い合わせに丁寧に対応し、対象者の快適な生活を支援する。

出所:https://www.pref.saitama.lg.jp/a0001/news/page/news141111-01.html

2.政府もデータヘルス計画を推進  

政府が昨年発表した「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)では、“国民の健康寿命の延伸”を重要な柱と位置づけており、この課題を解決するため、全ての健康保険組合に対して、レセプト等の分析とデータヘルス計画の作成・公表・事業実施・評価等の取組みを求めております。

3.埼玉県のデータヘルスによる改善効果

埼玉県は平成37年までの75歳以上人口の伸びが全国で最も高くなる見込みであり、県民の健康保持増進および、医療費適正化への対策が重要な課題となっている県です。糖尿病患者数は31万8千人(平成25年国民生活基礎調査)と推計され、糖尿病が重症化して人工透析に移行した患者は5,812人(平成22年)でした。

saitama patient

図1.埼玉県における人工透析患者数とそのうち糖尿病性腎症者の割合(出所:『糖尿病対策 – 埼玉県』埼玉県庁ホームページ, https://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/tounyoubyoutaisaku.htmlより日通システム作成)

上表の通り、人口透析患者に占める糖尿病性腎症者の割合が増加しています。

この場合、1人あたり年間に540万円の医療費が必要となります。国民皆保険制度や高額医療費制度下では、ほとんどの医療費は保険者が負担することになります。仮に、全患者が医療費の3割を負担としますと、2013年は保険者として、6742人×540万円×0.7=約254.8億円を負担したことになります。患者が高額医療費制度を利用した場合もありますので、実際にはそれ以上の負担をしています。

  一人あたり年間医療費※ 入院日数※ 罹患後の負担
心筋梗塞 195万円 17.9日 再発の不安
脳梗塞 112万円 35.5日 後遺症(片麻痺・言語障害・記憶障害等)
脳出血 177万円 46.2日 後遺症(片麻痺・言語障害・記憶障害等)
糖尿病合併症 (腎不全の場合) 540万円 156日 (通院日数) 透析によおる通院 (週3回程度)

※糖尿病合併症以外は全日本病院協会2009年1~3月診療アウトカム評価分析結果より引用
※糖尿病合併症は腎不全による人工透析の場合を想定し月額45万円として年間医療費を試算
※通院日数については週3回の通院×52週として通院日数を試算

表2.生活習慣病の重症化による医療費と入院日数(出所:『平成24年東京都保険者協議会医療費分析部会「医療費の分析とその活用」』より日通システム作成)

埼玉県によれば、今回の取組みでは、受診勧奨者3283人のうち698人(21.3%)が医療機関を受診しました。この698人が症状を維持された場合、治療を受けないまま合併症が進行した場合と比較した将来20年にわたる医療費適正化効果は約10億円、年平均約5,000万円、受診勧奨者1人あたり年間約1.5万円となります。十分投資効果があると言えるでしょう。

4.おわりに

今回は、地方自治体がレセプトと健診データを活用して重症化予防に取り組みました。このような取組みは、広島県呉市での取組み“呉市モデル”が参考になっており、今後他の自治体にも展開されることが期待されます。

国保加入者(加入者数:約4,200万人)の他にも、中小企業が利用する協会けんぽ(加入者:約3400万人)や大企業の組合管掌健康保険(加入者:約2,800万人)、公務員が利用する共済組合(加入者:約900万人)があります。特に、協会けんぽは、中小企業を主とする膨大な加入者に対して直接的で効果的な働きかけをすることに苦慮してきました。近年は、パソコンやスマートフォンを利用して健診結果を閲覧・解説するサービスをヘルスケア・コミッティー株式会社とともに提供しており、ITの力で解決しようとしています。無論、プライバシーや情報セキュリティの懸念や規制等はありますが、このような取組みは今後も増えていくでしょう。

上記の事例は、保険者である自治体が個人の健診データとレセプト情報を活用して、被保険者に重症化予防を勧奨する事業でした。このような、医療情報の連邦化(情報が集約・分析され最終的に個人にフィードバックする)された仕組みやサービスは、今後も浸透するでしょう。また、新たなサービスも生まれる可能性があります。

ここでいう 医療情報とは、ユーザーのバイタルデータ、メンタルデータ、生活データ、健診データなどです。近年は、モバイル端末やクラウド化の浸透、健康意識の高まりや政府の主導により、ヘルスケア関連ビッグデータのエコシステムが形成されつつあります。このようなエコシステムでは、様々なプレーヤーが存在します。

例えば、お金を出す投資家、解析する者、ツールリソースの提供者、コンサルタントのようなソリューション提供者、データを集める者、データを加工統合する者、ユーザーが集まる場を作る者、そしてアイデアを出しビジネスモデルを作りだす事業設計者などが考えられます。これらのプレーヤーのうち、誰が“キーストーン”として生き残るでしょうか。元日本IBM東京基礎研究所所長で米国のIBMワトソン研究所でオートノミック(自律型)コンピューティング分野のディレクターを務めた岩野和生氏は大学での講演で、「場を提供する者が生き残る」と述べています。

情報は複製・加工・転送を低コストかつ容易にできる特性を考えれば、「場の大きさ」、つまり、「ネットワークの数」が最も価値を生むのかもしれません。今後、ヘルスケア分野において多様なプレーヤーが現れると予測されますが、お互いがネットワーク化し、より大きな“場”を作り上げることが、日本のヘルスケアエコシステムの発展にとって重要となるでしょう。(おわり)