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ウェアラブルデバイスが果たす役割とは?

POSTED : 2015.8.11

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景山 宙 (かげやま ひろし)

日通システム株式会社ヘルスケア本部所属
東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科修士課程
にてMOTを専攻中。産学連携、標準化戦略等をテーマに研究中。
専門は機械工学、自動車工学。日英中国語を話す。

1.ウェアラブルデバイスの浸透

ここ数年、通信端末やセンサーの小型化が進み、多機能の小型デバイスが開発されるようになりました。記憶に新しいのが、アップルウォッチです。アップルウォッチは、腕時計型の装置で、iphoneに無線接続することで電話やEメール、メッセージ等が送れ、新しいアプリをダウンロードすることもできます。また、センサーが内蔵されており、心拍数や血圧、体温等も計測できるため、ユーザーの生活の一助として活用できようになっています。

このような身体に取り付けて利用する端末をウェアラブルデバイスと言い、手首以外に頭や指、胸に取り付けるタイプもあります。実際に購入して使っている人はまだ多くはないようですが、今後様々なシーンで見かける可能性がありそうです。図1は、今後身に着けたいウェアラブルデバイスの種類について欧米で調査(18歳以上の米国4,556人、EU11,647人にオンラインで調査)した結果を部位別に分類したものです。手首が一番多いですが、そのほかの部位でも今後アプリケーションが増えていく可能性があります。

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図1.身につけたいウェアラブルデバイスの欧米比較(出所:Forrester’s Northen Consumer Technographics, Consumer Technology Survey,2014, and Forrester’s European Consumer Technograpics Consumer Technology Survey,2014)

ウェアラブルデバイスは様々な用途が考えられますが、中でも、オフィスでの活用が期待されています。というのも、最近、オフィスのログを取ってオフィス環境やワーカーの生産性向上に活かせないか議論がされているからです。そこで今回は、以下の事例を参考に、健康経営の実践にあたってウェアラブルデバイスの活用ができないか検討してみたいと思います。

2.会話ログの計測

今回紹介するのは、「会話ログ」デバイスです。このデバイスを開発したのはアメリカのSociometricsolutions社で、MIT(マサチューセッツ工科大学,米国)のメディアラボから生まれた、いわゆる大学発ベンチャーです。余談ですが、MITでは毎年約900社のベンチャーが生まれているそうです。このデバイスは、社員証のように首にかけるだけでログを記録できるようになっています。

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図2.会話ログ測定シーン(出所:『Meeting Mediator: Enhancing Group Collaboration and Leadership with Sociometric Feedback』, In Proceedings of the ACM Conference on Computer Supported Cooperative Work. San Diego, CA. November 2008)

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図3.会話ログ測定デバイス(出所:『Sensor-based organizational design and engineering』
, International. Journal Organisational Design and Engineering, Vol.1,Nos.1/2, 2010, P81)

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図4.測定項目一覧(出所:『Social Sensors for Automatic Data Collection』, AMCIS 2008 Proceedings. Paper P171)

具体的には、1)加速度データの平均、2)標準偏差、3)行動量、4)主な行動(着座、立ち、歩き、走り)、5)発話量の平均、6)発話量の標準偏差、7)会話時間の割合、8)発話、未発話時間の割合、9)発話のセグメント長、10)話すスピード、11)面直でやりとりした時間の合計、12)トランシーバーやBluetoothを検知した時間、13)検知できた12)の数、14)推定されるロケーションといった項目を測定しています。

オフィスでの会話を記録されると聞くと、監視社会のようで従業員は使うことに尻込みすると思われるかもしれません。しかし、実際には従業員にも恩恵があるのです。

例えば、看護師の会話ログを取ることで作業効率が改善し、患者の待合時間が削減され、看護師の残業時間も減らすことができました。また、サーバー管理会社では、発生したトラブルとフィールドサービスエンジニアが誰に相談したかを記録し、見える化することで、多種多様なトラブルを迅速に解決できるようになりました。製薬企業の研究開発でも使用されており、専門分野に関するコミュニケーションネットワークを見える化することで、研究開発のキーパーソンを見つけたり、情報の流れを把握する一助となりました。現在では、既に40社以上約10万人に導入されているそうです。実際に利用したユーザーでは、売上が導入前と比べ約7%上がったそうです。

Sociometricsolutions社のベン・ウィーバーCEOは、テレビ東京のワールドビジネスサテライトの取材に対し、「会社は組織内のコミュニケーションの全体的な情報を得ることができます。個人は仕事を楽しんでいる同僚やトップセールスマンと自分を比べて、自分をどう変えてどれだけ変わったのかを知ることができます」と語っています。(2015年4月13日放映)

会話ログによって組織の生産性や創造性が向上し、その結果、従業員がその恩恵を授かったため、浸透していったのだと思われます。結局、誰が喜ぶシステム・制度を作り上げるかを愚直に徹底的に考えることが重要でしょう。

3.組織内の会話と生産性

ところで、このような「組織内外の情報・知識の流れを調査して知的生産性にどれだけ貢献しているか」という研究は、昔からなされておりました。例えば、T.Allenは1969年に発表した論文で、技術的なコミュニケーションネットワークへの影響因子は公式・非公式の交流関係にあり、「技術的ゲートキーパー(多くの研究者から技術的な相談をされる人)」が存在することを発見しています。その後30年以上に渡ってこの分野の研究は継続されてきましたが、研究手法としてはエスノグラフィやインタビューなど、地道な調査の積み重ねに頼らざるを得ないのが現状でした。

近年、会話ログが取れるウェアラブルデバイスが開発されたことで、調査・研究のスピードと質が向上することが期待されます。また、事業者など研究者以外の方が気軽に生産性や創造性の向上のためのツールとして利用されることも期待されます。現代社会では、組織の活性度が上がるに連れ生産性や創造性も上がる傾向にあります。ウェアラブルデバイスから得られたデータをクラウド上で集め、健康データやメンタル状態と紐づけすることで、従業員個人の状態と組織の活性度の関係性を視ることもできるでしょう。

4.健康経営とウェアラブルデバイス

従業員の健康状態と組織の活性度、そして組織のパフォーマンスとの関係性を視ることができれば、健康経営を実践した場合の効果を定量化できます。健康経営を始めることに躊躇している経営層は多いと思いますので、定量的に効果をみながら徐々に投資をしていくという選択肢も必要かもしれません。ウェアラブルデバイスは、その際に重要な役割を果たすでしょう。

今後、ウェアラブルデバイスの浸透により、人や家電、インテリアがネットワーク上でつながり相互に作用しあう空間が生まれ、従業員の健康や生産性の向上が期待されます。ITやネットワークの世界では、現象の観測から情報伝達、情報・データの処理、分析から「予測」の領域まで進んでいます。従業員の体調やメンタル状態、組織の活性度を収集、分析ができれば、例えばリアルタイムで空調や照明の調整、レシピの提案などもできるでしょう。(おわり)